ストーリー

みんなが恋しい想いを歌うから、
今日も石垣島はにぎやかだ
帰ってこない父、歌が人生の母、
強いにぃにぃ、やさしいおばぁ、
そして初恋の人──
栄順と加那子の恋しい気持ちはうたにのって、
愛しい人たちに届くのか?

大好きだった幼なじみとの再会

「栄順!!相変わらず足短いさぁ」
「お前こそ、まっくろーで、変わらんし」

 石垣島の太陽は、今日も容赦なく眩しい。高校生になった加那子(山入端佳美)は、おばぁ(平良とみ)の家に引っ越したきり逢う機会がなかった幼なじみの栄順(東里翔斗)と再会する。男らしくて頼りがいがあるが、全てひらめきで生きているような加那子の兄セイリョウ(石田法嗣)の「バンドやるどー」の一声で、栄順が歌、やはり幼なじみのマコト(宜保秀明)がギター、セイリョウがドラムをやることになる。加那子のパートは恥ずかしがり屋の栄順を歌わせること。自ら経営するバーでプロとして歌う母・澄子(与世山澄子)とピアニストで作曲もした父を持つ加那子も音楽が大好きだが、4歳の時に父がいなくなって以来、歌えなくなってしまったのだ。本土出身の父は「奄美に歌を探しに行く」と出て行ったきり、何の音沙汰もなかった。

初めて知った恋しい想い

「ずっといっしょにいてくれな」
「うん。ずっといっしょにいるさあ」

 バンド名は“セイリョウズ”、文化祭出場を目指して、牛小屋での練習が始まった。最初はセイリョウに言われて渋々始めた栄順だったが、やがて歌うことの喜びに目覚めていく。音楽に夢中になっているうちに、栄順と加那子は2年生、セイリョウは卒業できずにもう1度3年生になった。加那子はおばぁの理容室や澄子の店“インタリュード”を手伝いながら空手部で活躍、地区予選出場が決まった。

 気が付けば、いつもそばにいる。そんな加那子に、栄順はある日思い切って「俺たち、付き合ってるのかな」と質問する。加那子は笑顔で頷いてくれるのだった。1人だと怖くて歌えないから、ずっと一緒にいてほしい──それが不器用な栄順の愛の告白だった。

ちょっと挫折、すぐ復活

「文化祭出られないのは俺のせいです」
「もっと練習して、東京行くさ。俺たちに島はせまいさー」

 遂に文化祭のバンドオーディションが始まった。審査員席にはツェッペリンをすらすらと弾く音楽の小浜先生や卒業した先輩たちが並んでいる。昔から島の高校生の音楽レベルは高いのだ。遥かに実力も魅力も上のバンドが次々と現れ、セイリョウズはあっさり落選してしまう。文化祭の夜、またしてもセイリョウにひらめきが訪れた。学校をやめて「ちょっと旅」に行ってしまったのだ。

 加那子たちは3年生になった。地区決戦大会までいって負けた加那子が空手部をやめて、老眼で細かい作業が苦手になってきたおばぁの手伝いに精を出していた頃、セイリョウは奄美を訪れていた。セイリョウは崖から落ちた父をみとったおじぃを訪ね、父の遺品と遺骨を受け取るのだった。

それぞれの旅立ち

「栄順の歌で幸せになる人がいるはず」
「プロになれるかわからんけど、ずっと歌うよ」

 島に帰ってくるなり、「東京へ行ってレコードデビューする」と宣言するセイリョウ。バンドを解散してしまった栄順の同級生の浩(大嶺健一)がキーボードに加わり、バンド名も“ビキニング”に変えて、新たな出発の時だ。今年の文化祭のバンド大会は中止と聞いた栄順は、他の高校にも呼びかけて八重山バンド天国を自分たちで開催しようと発案する。大人たちの力も借りて、東京で開かれる全国大会への出場権をかけた本格的な大会が開催される。練習の甲斐あって、見事優勝するビギニング。

 その夜、みんな東京行きへの期待と不安に揺れていた。セイリョウは父の遺骨と楽譜を母に渡す。途中だった歌詞にセイリョウが書き足して完成させた楽譜だ。栄順は、卒業したら一緒に東京へ行こうと加那子にプロポーズする。離れがたい2人が、明け方の堤防を歩いていたとき、栄順の歌声につられて加那子も歌い出す。「うち、歌ってる」 加那子の胸が喜びに満ちたとき、遠くから浩の叫び声が聞こえてきた……。

思わぬ運命に襲われたセイリョウ。
皆の東京行きの夢は?
そして栄順と加那子の恋の行方は?
人を恋しく想う気持ちを知って
ひとつ大人になった加那子は、
ある決意を秘めていた……。